私と推しグッズ物語

一枚のおまけカードが映し出す、人生の輝き

Tags: おまけカード, 収集, 懐かしさ, 子供時代, エピソード

子供時代の熱狂が呼び覚ますもの

私たちにとって、子供時代に夢中になったものというのは、単なる「遊び道具」や「コレクション」ではなかったように思います。それは、あの頃の喜びや熱狂、あるいは少しの切なささえも鮮やかに閉じ込めた、小さなタイムカプセルのようでもあります。

今回お話を伺ったのは、幼い頃に一世を風靡したあるスナック菓子のおまけカードを収集されている、佐藤誠さん(仮名、60代)です。かつては誰もが一度は手にしたであろうそのカードに、佐藤さんが今、再び心を奪われる理由。それは単なるノスタルジーだけではない、深い人生の物語が隠されていました。

駄菓子屋の片隅で始まった「冒険」

佐藤さんがおまけカード集めに熱中したのは、小学校低学年の頃だったそうです。当時、近所の駄菓子屋には、そのおまけカード付きのスナック菓子が山積みにされていました。少ないお小遣いを握りしめ、どきどきしながら袋を開ける瞬間。出てくるカードが、狙っていたものだった時の飛び上がるような喜び。あるいは、また同じカードだった時の落胆。その一つ一つの体験が、佐藤さんの記憶に深く刻まれています。

「あの頃は、カードが欲しくてお菓子を買っていたようなものです。もちろんお菓子も美味しかったですが、一番の目的は、あのキラキラしたカードでした」と佐藤さんは懐かしそうに目を細めます。友達との間でカードを交換したり、誰が一番レアなカードを持っているか見せ合ったり。それは、小さな社会の中での大切なコミュニケーションであり、子供たちなりの価値観やルールが生まれる場でもありました。

「なかなか手に入らないカードがあると、もう一日中そのことばかり考えていました。親にお小遣いを前借りして、駄菓子屋に駆け込んだこともあります。今思えば、本当にささやかなことですが、子供にとってはそれが世界の全てだったんですね」

時を経て蘇った「宝物」

大人になってからは、仕事や家庭に追われ、おまけカードのことなどすっかり忘れてしまっていたという佐藤さん。しかし、数年前に偶然、インターネットオークションで当時のカードを見かけたことが、再び収集の世界へと足を踏み入れるきっかけとなったそうです。

「画面に映し出されたカードを見た瞬間、胸が熱くなりました。あの頃の記憶が一気に蘇ってきたんです。指先の感触、友達の声、駄菓子屋の匂い...。単なる紙切れではなく、あの頃の私自身がそこにあるように感じました」

最初は懐かしさから、一枚二枚と買い始めたのが、気づけば本格的な収集へと発展していったと言います。子供の頃には手に入らなかったレアカードを大人になってから手にした時の感動は、子供の頃のそれとはまた違った、格別なものだったそうです。

「もちろん、今では大金を出せば手に入るものもあります。でも、そうやって手に入れたカード一枚一枚に、あの頃の自分が重ね合わさるんです。このカードを手に入れるために、どれだけ駄菓子屋に通っただろうか、どれだけ友達と交渉しただろうか、って。それは、単なるコレクションではなく、自分の人生の断片を集めているような感覚に近いのかもしれません」

収集を通じて、同じように昔のおまけカードを集めている人たちとの交流も生まれたそうです。年代は様々ですが、同じカードを見て笑い合える仲間との繋がりは、佐藤さんにとってかけがえのないものとなっています。

小さなカードが教えてくれること

佐藤さんにとって、おまけカード収集は、単に失われた子供時代を取り戻す行為ではありません。それは、あの頃の純粋な情熱や探求心、小さなことにも心を揺り動かされた感受性を、大人になった今も持ち続けていることを教えてくれるものです。

「カードを見ていると、子供の頃の自分が『頑張れよ』って言ってくれているような気がするんです。あの頃、一枚のカードにあれだけ夢中になれたんだから、大人になったって何かに夢中になれるはずだって」

壁に飾られたお気に入りのカードは、佐藤さんの人生の輝きを映し出す鏡のようです。一枚一枚のカードが持つ物語は、収集家自身の人生と重なり合い、深みを増していきます。おまけカードという小さな存在が、佐藤さんの日々に彩りと、あの頃と変わらない純粋な喜びをもたらしている。その姿は、収集という行為が、モノを集めるだけでなく、自身の内面や過去と向き合い、人生を豊かにする営みであることを静かに物語っています。


(この記事は、特定の収集家への取材に基づいて構成されたフィクションです。)