私と推しグッズ物語

古い電球に宿る、人生の物語

Tags: 収集, 電球, エピソード, 人生, アンティーク

暗闇を照らす小さな光に魅せられて

私たちの日常に当たり前のように存在する電球。しかし、その役割を終え、ひっそりと姿を消していく古い電球たちに、深い愛情と物語を見出す方がいます。今回は、長年にわたり様々な時代の古い電球を集め続けている、佐々木健一さん(仮名、70代)のお話を伺いました。佐々木さんの書斎には、ガラスケースの中に整然と並べられた、形も大きさも様々な電球たちが静かに輝きを放っていました。

きっかけは、幼い頃の記憶

佐々木さんが古い電球に心惹かれるようになったのは、幼い頃の体験が原点にあるといいます。

「終戦後まもない、まだ暗い時代でした。夜といえば、裸電球が辛うじて部屋を照らしている。でも、そのぼうとした橙色の光が、なんだかとても温かく、安心できるものだったんです。物資のない中で、一つ一つが貴重な明かりでした。食卓の真上に吊るされた電球の下で家族で囲む夕食の光景が、今も鮮明に心に残っています。」

その記憶は、大人になっても佐々木さんの心の片隅に残り続けていました。本格的に収集を始めたのは、退職後、偶然立ち寄った骨董市で、昔見たような形の古い電球を見かけた時でした。

「手にした瞬間、子供の頃のあの温かい光が蘇ったような気がしたんです。ガラスの質感、フィラメントの繊細さ、そしてどこか儚げな存在感に、抗えない魅力を感じました。それが始まりでした。」

それぞれの電球に宿る、持ち主の物語

佐々木さんが収集する電球は、単なる工業製品ではありません。一つ一つに時代の息吹や、かつての持ち主の暮らしの痕跡を感じ取るといいます。

「これは大正時代のものだそうです。まだ電気が珍しかった頃、どんなお屋敷で、どんな人々の営みを照らしていたのだろう、と想像するんです。この小さな欠けは、もしかしたら子供がぶつけてしまったのかもしれない。そう考えると、電球一つにも、その時代の、その家族の物語が宿っているように思えてなりません。」

中には、苦労して手に入れた一点もあるそうです。

「ある古い商店が取り壊されると聞き、慌てて譲ってもらった電球があります。何十年も同じ場所で店先を照らし続けてきたのでしょう。埃まみれでしたが、丁寧に磨いてやると、鈍いながらも独特の光沢を放ちました。まるで、『よく見つけてくれたね』と言っているかのようで、手にした時は感無量でした。」

電球を探し求めて各地の骨董市や古い建物を見て回る中で、様々な人々と出会い、話を聞くことも佐々木さんにとって大切な時間です。電球を介して、見知らぬ人々の人生の断片に触れることができる。それが収集の醍醐味の一つだと語ります。

人生を照らす、かけがえのない存在

電球収集は、佐々木さんの日々に彩りを与え、孤独を感じさせない存在になったといいます。

「一つ一つの電球を眺めていると、心が落ち着きます。ただ光るだけでなく、その形、素材、製造された時代背景など、知れば知るほど奥深い。インターネットで情報を調べたり、他の収集家の方と交流したりするのも楽しい時間です。」

何よりも、古い電球たちが放つ、どこか懐かしく、温かみのある光に癒されるそうです。

「LEDのように煌々と明るくはありません。でも、その柔らかい光を見ていると、子供の頃の安心感や、過ぎ去った日々への郷愁が込み上げてきます。電球たちは、私にとって過去と今を繋ぐ、大切な架け橋のような存在です。」

光と共に、未来へ

佐々木さんは、これからも無理のない範囲で収集を続けていきたいと考えています。そして、いつか自分が集めた電球たちを通して、多くの人に光の歴史や、それぞれの電球が持つ物語を感じてもらえる機会があれば、と静かに願っています。

古い電球一つ一つに宿る、人々の暮らし、時代の変遷、そして持ち主の温かい記憶。それらを大切に守り続ける佐々木さんの眼差しは、集められた電球たちが放つ光のように、穏やかで深い輝きを湛えていました。光はただ照らすだけでなく、そこに生きる人々の心に、温かい物語を紡ぎ出すのかもしれません。