私と推しグッズ物語

古い化粧品の容器に宿る、人生の彩り

Tags: 化粧品容器, 収集家エピソード, 思い出, 人生, 女性

古い化粧品の容器が語る、時代と人生の物語

私たちの身の回りにある、何気ない品々。それらは単なるモノとしてではなく、持ち主の歴史や時代の空気、そして様々な想いを宿しています。今回ご紹介するのは、古い化粧品の容器を収集されている佐々木美代子さん(仮名、60代)です。ガラスや陶器、金属で作られた色とりどりの小瓶やコンパクトに魅せられた佐々木さんの、美しくも切ない、人生の物語を伺いました。

佐々木さんが古い化粧品の容器に心を奪われるようになったのは、数年前、実家の片付けをしていた時のことでした。母が大切に使っていた鏡台の引き出しから、小さく美しい香水瓶が出てきたのです。それは、佐々木さんが幼い頃、時折母がつけていた懐かしい香りをかすかに宿していました。

「その香りを嗅いだ時、まるでタイムスリップしたかのようでした。母が若かった頃の姿、デパートの化粧品売り場の華やかな雰囲気、そして私自身の幼い頃の思い出が、鮮やかに蘇ってきたのです」と佐々木さんは振り返ります。

その一本の香水瓶がきっかけとなり、佐々木さんは古い化粧品の容器という世界に足を踏み入れました。アールデコ調の幾何学模様が施されたパウダーコンパクト、乳白色のガラスに繊細な装飾が施されたクリームジャー、鳥や花を模った遊び心のある香水瓶など、それぞれの容器が持つ独特のデザインや素材に魅了されていきました。

集めるほどに、それらの容器は単なる入れ物ではないことを感じるようになったと言います。「それぞれのデザインには、その時代の女性たちの美への憧れや、暮らしの中の工夫、そして社会全体の価値観が映し出されているように思えるのです。流行りの色や形、素材の変化を追うことは、そのまま一つの時代の女性史を辿る旅でもありました」

しかし、古い品ゆえの苦労も少なくありません。状態の良いものを見つけるのは容易ではなく、ヒビが入っていたり、金属部分が錆びていたり、あるいは元の香りが強く残っていたりすることも多々あります。骨董市やアンティークショップ、時にはインターネットオークションなどを根気強く探し求める日々が続きました。また、増え続けるコレクションをどのように保管していくかという課題にも直面しています。一つ一つ丁寧に手入れをし、傷つけないように並べる作業も、収集家としての責任だと佐々木さんは語ります。

数あるコレクションの中でも、佐々木さんが特に大切にしている品がいくつかあります。一つは、やはり母の鏡台から見つかった香水瓶です。それは、母の温もりと、共に過ごした時間そのものが形になったように感じられると言います。もう一つは、佐々木さんが初めてお小遣いを貯めてデパートで買った口紅の容器です。当時としては少し背伸びをした、でも大人になったような気分にさせてくれたその小さな金属の筒は、あの頃の甘酸っぱい思い出と、自分自身の成長の証のように思えるそうです。

古い化粧品の容器を集めるという活動は、佐々木さんの人生に様々な変化をもたらしました。過去の時代や文化への関心が高まり、関連する文献を読んだり、資料館を訪ねたりするようになったのです。また、同じように古い化粧品に魅せられた人々との交流も生まれ、情報交換をしたり、共感し合ったりする中で、新たな繋がりが広がりました。何よりも、一つ一つの容器に宿る物語に触れることは、自分自身の人生や、母や祖母といった家族の歴史を改めて見つめ直すきっかけとなりました。

「これらの容器は、過ぎ去った時代を今に伝えるメッセンジャーのような存在です。そして同時に、私自身の人生の節目や大切な思い出が詰まった、小さなタイムカプセルのようにも感じています」と佐々木さんは微笑みます。

古い化粧品の容器に囲まれた空間で、佐々木さんの目はいつも輝いています。それは単なるモノへの愛着というだけではなく、その品々を通じて繋がる過去への敬意と、自らの人生に対する深い慈しみの表れのように見えました。これからも佐々木さんの「美の記憶」を集める旅は続いていくことでしょう。それぞれの容器が語りかける声に耳を澄ませながら、人生という名の美しい物語を紡いでいくのです。