私と推しグッズ物語

企業のノベルティ収集家が見つけた、日々の温かい記憶

Tags: ノベルティグッズ, 収集家, エピソード, 思い出, 人生

小さなノベルティに宿る、人生の物語

私たちの周りには、知らず知らずのうちに多くのノベルティグッズが存在しています。お店で貰ったボールペン、イベント会場で配られたキーホルダー、商品の試供品など、どれもささやかではありますが、そこには作った企業の思いや、受け取った時の記憶が宿っています。今回お話を伺ったのは、長年にわたり様々な企業のノベルティグッズを収集されてきた、佐藤さん(仮名)です。一見すると単なる販促品に過ぎない品々に、佐藤さんはどのような価値を見出し、どのような物語を紡いでこられたのでしょうか。その温かい収集の日々について語っていただきました。

始まりは、祖父がくれた飛行機会社のペン

佐藤さんがノベルティグッズを意識して集めるようになったのは、今から40年ほど前のことだと言います。

「私が小学生の頃でしょうか。飛行機会社に勤めていた祖父が、よく会社のロゴが入ったボールペンやメモ帳をくれたんです。子供心に、普段お店では買えない特別なもののように感じて、大切に使っていました。そのうち、祖父がくれるものだけでなく、他の会社のノベルティも気になり始めたんです。銀行の粗品で貰った貯金箱、地元の商店街のイベントで配られた手ぬぐいなど、目にするたびに『これもノベルティだな』と意識するようになっていきました。」

初めは特別な意識があったわけではなく、身の回りにある「企業の印が入ったもの」に自然と目が留まるようになったそうです。学生時代には、文具店で買い物をした時に貰えるメーカーのロゴ入り定規や、書店で配布されるブックカバーなども、捨てるのが惜しくて集めるようになりました。それらは、単なる物としてではなく、何かのきっかけで自分のもとにやってきた「縁」のようなものに感じられたと言います。

思い出が詰まった、名もなき品々

佐藤さんの収集品は多岐にわたります。ボールペン、キーホルダー、メモ帳、手ぬぐい、マグカップ、灰皿、試供品、バッジ、小さな置物など、企業が販促のために作った様々な品々です。中には、今ではその企業自体が存在しないものや、デザインが時代を感じさせるものも少なくありません。

「一つ一つに、その品物を手にした時の記憶が蘇るんです。この観光会社のキーホルダーは、家族旅行で初めて飛行機に乗った時に、空港のカウンターでいただいたもの。この銀行のメモ帳は、初めて自分名義の通帳を作った日にもらった記憶があります。この化粧品の試供品は、母が使っていて、私もこっそり使ってみた思い出の品です。大したものではないかもしれませんが、私にとっては大切な人生の節目や、日常の小さな出来事と結びついた宝物なんです。」

特に印象深いエピソードとして語ってくれたのは、ある地方の小さな商店街が作ったオリジナルのエコバッグです。

「もう20年以上前になりますが、仕事で訪れたその町で、たまたま立ち寄った八百屋さんで買い物をしたら、『これ、サービスね』と言って渡されたんです。手作り感のある、どこか垢抜けないデザインでしたが、そのお店のおばあさんの温かい笑顔と一緒に記憶に残っています。後日、その商店街がシャッター街になってしまったとニュースで見て、このエコバッグを見るたびに、あの時の風景とおばあさんの優しさを思い出すようになりました。」

収集が教えてくれた、日々の豊かさ

ノベルティ収集は、佐藤さんの人生に様々な影響を与えてきたと言います。

「一番大きな変化は、日常の中にある小さなことにも目を向け、感謝するようになったことかもしれません。ノベルティグッズは、基本的に無料や、何かを購入したおまけとして手に入ります。でも、そこには必ず誰かの意図や、受け取る人へのサービス精神が込められているはずです。そう考えるようになると、道端に咲いている花や、お店の人のちょっとした心遣いなど、普段見過ごしてしまいがちな小さな幸せにも気づけるようになりました。」

また、収集した品々を整理する時間は、過去を振り返る貴重な機会だと言います。一つ一つのノベルティを手に取りながら、手に入れた時の状況、一緒にいた人、当時の自分の年齢や心境などを思い出すそうです。それは、まるで自分自身の人生を、物の側から紐解いていくような感覚なのだと語ります。

「部屋に並べられたノベルティたちは、決して高価な美術品ではありません。でも、私にとってはどれもが、その時代の空気や、人との関わり、そして私自身の歩みを静かに語りかけてくれる存在です。これからも、気負うことなく、ふと目にとまった縁のあるノベルティたちを、大切に集めていきたいと思っています。」

佐藤さんの穏やかな眼差しは、集められたノベルティ一つ一つに注がれていました。そこにあるのは、単なる物のコレクションではなく、佐藤さんの人生そのもの。小さな品々に宿る温かい記憶は、これからも佐藤さんの日々を豊かに彩っていくことでしょう。