一枚の布が紡ぐ、人生のパッチワーク
古い布地に魅せられて
今回お話を伺ったのは、長年にわたり古い布地を集めていらっしゃる佐藤さんです。色とりどりの着物の端切れ、年代物の洋服の残り布、今はもう手に入らないような珍しい柄の布など、佐藤さんのご自宅には様々な布地が大切に保管されていました。単なる布切れのように見えるそれらが、佐藤さんの手にかかると、温かい物語を持つ宝物のように感じられます。
佐藤さんが布地を集め始めたのは、今から四十年ほど前のことだそうです。きっかけは、お母様が若い頃に着ていた着物をほどいた端切れでした。鮮やかな色合いや繊細な柄に、当時の人々の暮らしぶりや、お母様の若かりし頃の姿が重なって見えたといいます。一枚一枚の布に宿る「時間」と「物語」に惹かれ、それ以来、古い布地との出会いを求めて各地を巡るようになりました。
布地との出会い、人生との巡り合わせ
収集を続ける中で、佐藤さんには数えきれないほどの思い出があります。例えば、ある骨董市で偶然見つけた、昭和初期のものと思われる木綿の端切れのこと。素朴でありながら力強い柄は、当時を生き抜いた人々のたくましさを感じさせたそうです。その布を手に取った瞬間、まるで遠い過去から語りかけられているような不思議な感覚に包まれたと語ってくださいました。
また、古い布地は、思わぬ形で人との繋がりを生むこともあったといいます。譲り受けた布地にまつわる持ち主の思い出話を聞いたり、同じように古い布地を愛する仲間と出会い、情報交換をしたり。一枚の布が、見知らぬ誰かの人生の断片を伝え、そして新たな人間関係を築くきっかけとなる。佐藤さんは、そんな布地の持つ温かい力を幾度となく感じてきたとおっしゃいます。
もちろん、収集には苦労も伴います。虫食いやカビから布地を守るための保管方法には気を遣いますし、時には偽物をつかまされて悔しい思いをしたこともあるそうです。しかし、それもすべて、布地への深い愛情ゆえのこと。一つ一つの苦労も含めて、収集活動そのものが佐藤さんの人生を豊かに彩る経験となっているようです。
集めた布地を使って、パッチワークや小物作りをすることも佐藤さんの楽しみの一つです。様々な色や柄の布を組み合わせ、新しい一つの作品を生み出す時間は、まるで人生の断片を紡ぎ合わせるかのようです。完成した作品を見るたびに、布地一つ一つにまつわる思い出が蘇り、温かい気持ちになるとのこと。
布地に織り込まれた人生
佐藤さんにとって、古い布地の収集は単なる趣味の域を超えています。それは、過ぎ去った時間を慈しみ、名もなき人々の営みに思いを馳せる行為です。一枚の布には、それを作った人の手仕事、着た人の記憶、そして時代背景といった様々な要素が織り込まれています。それらを読み解き、自身の心と響き合わせることで、佐藤さんは深い喜びを感じるのです。
「古い布地は、持ち主の人生だけでなく、日本の歩んできた歴史の一部も静かに語ってくれるように感じます」と佐藤さんはおっしゃいます。そして、それらを大切に受け継ぎ、新たな形として生まれ変わらせることに、大きな意味を見出しているようです。
佐藤さんの布地コレクションは、まさに「人生のパッチワーク」です。様々な色、形、時代の布が集まり、それぞれの物語を静かに語りかけてきます。それは、多様な経験を経てきた私たち自身の人生とも重なるのかもしれません。古い布地を通して、佐藤さんの温かい心と、人生を慈しむ姿勢に触れることができたひとときでした。